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喪失

2011年夏
 
 僕は天使のように可憐なサディストと奇跡的に巡り会えた歓びに舞い上がっていました。
失われたSMへの情熱が一気に蘇ってきたのです。 5年間のブランクは一瞬で埋まり、初心者の頃に戻ったように新鮮な感覚を取り戻していました。

 すぐにでもリピートの予約を入れたかったのですが、この時期は仕事に忙殺されていて、彼女の出勤日と中々予定が合いませんでした。 一ヶ月ほど待って9月の初旬にようやく再会が叶うことになりました。 

 その日、関東には台風が迫っており、天気は大きく荒れていました。 強風の影響で電車が止まらないか不安でしたが、なんとか予定時間には待ち合わせのホテルにたどり着くことができました。

 ヘアスタイルをアップに変えて、少しだけ大人びたイメージに変身して現れた彼女は、相変わらずキュートな笑みをたたえて光り輝いていました。

 裸になって彼女の前に跪いた僕は、自分が本当にみすぼらしく矮小な存在に思えてきました。
女王が可憐で美しければ美しいほど、マゾ男は惨めで哀れな自分を被虐的に捉える事ができるのです。 

太陽のように光り輝く女神の元に近づいて一瞬で焼き尽くされるゴミムシのようにちっぽけな存在。

たとえそうであっても、これからずっとこのお方についていきたい。僕はそう願っていました。

 この日は人間便器にして頂く予定でしたが、彼女の体調不良でそれは叶いませんでした。
夢のような2時間はあっという間に過ぎて、再開を約束し僕は彼女を見送りました。

 その後、一人でホテルに残って後片付けをしていると、突然、堪らない寂寥感に襲われました。
祭りが終わった後の寂しさのような感覚は、プレイ後によく味わっていましたが、それとはまた別の思いでした。 

 お店を介した女王様とお客の関係は本当にあっけなく終わってしまう事を何度も経験していたので、やがて訪れるであろうその日の事を思い描いていたのでした。

 僕は胸を締め付けられるような不安を押し殺し、ホテルを後にしました。

 外は強風が吹き荒れて、路上には吹き飛ばされた店の立て看板やポリバケツが転がっていました。

 その後はまた、しばらく仕事に忙殺される日々が続きました。
僕は気を取り直して、彼女との次のプレイの予約を取るため、スケジュール調整に頭を巡らしていました。 お店のサイトで彼女の出勤スケジュールを確認し、なんとか早いうちに再開を実現したいと願っていたのです。

(プレイ後にBBSに書き込んだお礼のコメントに対して彼女からお返事があるかもしれない…)
僕は少し期待しながらお店の掲示板を開きました。

 残念ながらそこに僕に対するお返事はありませんでしたが、代わりに客からの強い口調のクレームのコメントが目に飛び込んできました。 それは女性のプレイとスタッフの対応に対するクレームでしたが、何やらとても理不尽な内容で文面からはヒステリックで粘着質な人物像が思い浮かびました。

 そのクレームが僕の天使に対するクレームだと気がつくまでそんなに時間を要しませんでした。 名前は伏せられていましたが、その理不尽なクレーム内容とプレイ時の彼女の体調に思い当たる節があったのです。

僕は黙っていられずに、その人物に当日の状況を説明するコメントを書き込みましたが、かえって火に油を注ぐ結果となりました。 彼は自らの勝手な思い込みと大きな誤解で、どんどん怒りを膨らませていったのです。 僕は数日間に渡って彼女を庇い誤解を解こうと躍起になりました。

「ウザい!お前には関係ない。消えろ!!」 敵意をむき出しにしたコメントが返ってきました。

この人物は女王様も一人の人間であるという前提が全く理解できていないようでした。

 お店からも謝意のコメントが書き込まれましたが、女性の体調面等を考慮していないその人物に対して、皮肉とも取れる内容が含まれていました。 結局お店と電話でやり取りすることで、解決を図る事に落ち着いたようでしたが、この後、僕はショッキングな事実に気がつきました。

 彼女の出勤スケジュールから確かに出勤予定だったはずの日程が全て消えていたのです。

辞めた!?クビ?嘘だろ…それとも嫌気がさして自分から退店したのだろうか…

僕はBBSでお店に確認しましたが、返事のコメントは一切ありませんでした。

絶望…………………………………………………。

たった2回のプレイの想い出だけを残して、彼女は僕の目の前から消え去ってしまいました。
あの最高の笑顔と、美しい顔立ちと、可愛らしい声と、優しさと、厳しさと、女性らしさ清潔感知性素質品格と………

 今まで出会った女王様の中でも最高位の、名誉女王様の称号を冠するに相応しい比類なき存在が、一瞬で消え去ってしまったのです。

 つい先日まで天にも昇る思いだったのに一気に目の前が真っ暗になりました。
あの大荒れの台風の日に漠然と感じた不安が現実のものとなったのです。

 理不尽なクレーマー男に対して殺意にも似た怒りの感情が込み上げてきました。

このやり場のない怒りと悲しみをどこにぶつければいいのだろうか!?
嘘であってほしい…何かの間違いであってほしい。


かけがえない存在を失った大きな喪失感と苛立ちで、仕事が手につかない日々が続きました。

苦しくて、辛くて何度も大声で泣き叫びたい衝動に駆られました。

(どんな些細な情報でもいい。ネットに何か手がかりは落ちてないだろうか…)

 僕は藁にもすがる思いで、毎日パソコンの前にしがみついて彼女に関する情報を探し求めました。
するとある掲示板に『他のお店に移籍したらしい』という書き込みを見つけました。
お店の名前を聞いても返答はありません。

 しかし、僕はその情報に一縷の望みをかけて、関東のSM店に在籍している女性のプロフィールを虱潰しに探しました。
 
 彼女の顔写真と身長やスリーサイズを元に、M性感やイメージクラブまで広範囲に渡って探しましたが、それらしい女性は発見できませんでした。 他にも幾つか彼女に関する情報がもたらされましたが、どれもガセネタばかりで彼女の発見には結びつきませんでした。

 お店のサイトにはまだ彼女のプロフィールが残っていました。 すでに退店している女性の写真をいつまでも残して、客寄せに使うケースはよくありますが、僕は希望を捨てず毎日スケジュールを確認しました。 しかしそれは真っ白のままで更新されることはありませんでした。

この頃、何人かの彼女を慕うファンが復帰を願い、BBSにメッセージを書き込んでいるのをみかけました。

もう忘れよう…やっぱり彼女に会いに行ったのが間違いだったんだ。

僕はもう何をするのも億劫になり、しばらく茫然とした状態が続きました。

過去に何度も同じような経験をしてきたはずなのに、今回だけはどうしても彼女の面影を頭の中から拭い去ることができませんでした。

失恋の痛手から立ち直るには新しい恋を始めるのがいい。

確かに過去に何度かそんな経験をしたこともありました。

 僕は彼女と出会う前に、ネットで写真を見て気になっていた別の女王様の元へと足を運びました。 長い黒髪とお嬢様風の容姿が、とても魅力的で憧れていた女性でした。 彼女の代わりになるのはこの人しかいないだろうと思いました。

 しかしプレイ後、僕はすぐに落胆し後悔の念に陥りました。 その方もとても素敵な女王様でしたが、比べてしまうとどうしても見劣りがしてしまうのでした。

この先どんなに求めても、彼女を超える女王様とはもう出会えないだろう…

僕には以前のように、次を求めてさすらう気力は残っていませんでした。

 彼女を失ってどのくらいの時間が経ったのでしょうか… それは僕にとってとてつもなく長い時間、苦しみ続けたように思えました。

 この頃になると僕はもうお店のサイトを覗くこともなくなっていました。
彼女のプロフィール写真を見るとあの楽しかった2日間が思い起こされ、余計に苦しい思いをするからです。 仕事にも支障が出始めていました。

なんとか気持ちを切り替えて立ち直ろう。このままではダメになってしまうぞ!


僕は自らを叱りつけ、仕事に専念するように心がけていました。一時の夢は忘れ、現実に返ろうともがいていました。
さらに長い長い時が流れたように感じました。

突然の朗報はネットの情報からもたらされました。

『彼女戻ってるみたいだよ。』

ガセネタばかりで信頼のおけない掲示板でしたが、一応お店のサイトを確認してみる事にしました。 

スケジュールは相変わらず真っ白でしたが、そこには本人の言葉でこう書かれていました

「今はプライベートな事情で休みをもらっています。心配させてごめんなさい。」

彼女は退店したわけではなかったのです!

 僕の早とちりだったのでしょうか?
しかし、あのトラブルとあまりにもピッタリと合致していたのです。 果てしなく長い時間が経過したように思っていましたが、意外にもそれは3週間ほどの間の出来事でした。

また再び彼女に会える!

僕は安堵で全身から力が抜けてしまったようでした。

嬉しくて、嬉しくて、涙でパソコンの画面が霞んでしまっても、彼女の残してくれたメッセージをずっと見つめ続けていました。

(これは僕がご主人様と出会ったばかりの頃のお話です。)

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プロフィール

mugi

Author:mugi
踏みつけられて、より強く丈夫に
育つムギの様でありなさいと
ご主人様が付けて下さった奴隷
名です。なんという素晴らしい
ネーミングセンス!
しかも音の響きも可愛らしい。
ビールが大好物の僕にピッタリ!
とても気に入っています(*^o^*)
馬派(苦痛)・犬派(奉仕)・豚派
(便器)全てのM性癖を持ち合わ
せたオールラウンダーな変態を
目指しています。

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